能楽ー中世成立の楽劇
能→狂言→能というふうに能の合間に狂言が上演され、この2つを一括して「能楽」と呼ぶ。
能とは?
日本の伝統芸能。
仮面(面)をつけた役者が、独特の抑揚をつけてコトバ(詞)を語り、演じ、舞う音楽仮面劇。
地謡(斉唱のコーラス)、4種の楽器による囃子に合わせて舞う。
能は文楽、歌舞伎と並んで、わが国の三大演劇と言われる。
しかしこれらは、音楽と不可分に結びついているため、単に演劇というよりは「音楽劇」「音楽舞踊劇」という方が適切である。
能舞台の構造
https://www.nohgaku.or.jp/encyclopedia/whats/stage.html
能舞台の特徴
◇幕がなく三方に開放されている。
西洋の舞台や、近世に成立した文楽・歌舞伎の額縁式舞台と異なる。
※額縁式舞台:額縁のように3面の壁に囲まれている舞台。
観客は絵画を見るように一つの方向(第4の壁)から舞台で行われていることをのぞき込む。
◇舞台装置をおかない。
「作り物」と呼ばれる竹製の道具(山・舟・小屋など)をおくことがあるが、簡単なものであり、装置というより演技を助ける道具である。
◇長い橋掛り(橋懸りとも)が斜めにのびている。
ここは登場・退場の通路だけでなく、様々な演出法に利用される。
(例)・本舞台とは違う場面として使う
・シテが橋掛りに赴く間に舞台の場面を転換する など。
この橋掛りは後世の歌舞伎舞台の「花道」へと展開した。
◇正方形の本舞台のさらに奥にアト座があり、縦に深い空間を形成している。
横に広い歌舞伎の舞台とは異なる、独特の舞台空間であると言える。
能楽の4つの「方」
能楽の役者は4つのグループのいずれかに属する。
このような分業制度は江戸時代に確立された。
①シテ方:主役
②ワキ方:シテの相手役、脇役
④囃子方:器楽演奏
①②③は役に扮して舞台に立つことから「立方(たちかた)」といい、演技・声・舞を担当する。
また、②③④をまとめて「三役(さんやく)」と呼ぶ。
シテ方
シテ方に属する役者は次のような仕事をつとめる。
◇主役(シテ)を演じる。
老若男女から、鬼や神、亡霊などのあらゆる役に扮し、能面をつける特権を持つ。
◇シテに連れ立つツレを演じる。
ツレ:主役のシテに付随して登場する役。
お供の役も多いが、シテまたはワキに匹敵する重要な場合もある。
◇地謡(じうたい)
通常6~10人で構成され、2列で座る。(狂言では3~5人が1列。狂言の地謡は狂言方から出る。)
地頭(じがしら)と呼ぶリーダーの統率によってユニゾンで謡う。
◇後見
舞台監督、世話役、進行の手助けをつとめる。
ワキ方
主役であるシテに対し、脇役をつとめる。
僧や神官、天皇のお使い、武士など。
室町末期からシテ方から独立し専門職となった。
現実の男性のみを演じ、女性や老人、神や鬼など異次元の存在に扮することはまったくない。
能面を用いることはなく、常に素顔(直面(ひためん))である。また、舞は舞わない。
囃子方(器楽演奏)
能の囃子は、四拍子(笛、小鼓、大鼓、太鼓の4種の楽器)で構成される。
※読み方:四拍子(しびょうし)、小鼓(こつづみ)
太鼓は曲によって入る場合と入らない場合がある。
シテの謡や舞、あるいは地謡を引き立てる役割。
囃子に指揮者はなく、シテや地謡に合わせて演奏するが、シテのかすかな合図や地頭の微妙なタイミングを感じ取って、テンポに緩急をつけたり演奏を変化させたりする。
囃子(はやし)・・・
「囃す」は「栄やす、映やす」とも書くように、本来「映えるようにする、引き立てる」の意味で、手を打ち鳴らしたり、楽器を奏したり、「エンヤコラセー」などの囃しことばを唱えたりして、歌舞の調子をとること。
以上、「音楽劇」とも言うべき能の舞台芸術性に着目し、基本知識として
◇能舞台の構造と特色
・額縁式舞台と異なり、三面に開放されている。
・舞台装置を用いない。
・「橋掛り」が存在する。
・舞台は縦向きに深い。
◇4つの「方」とそれぞれの役割
・シテ方と三役
について解説した。
《参考》
月溪恒子『日本音楽との出会い―日本音楽の歴史と理論』東京堂出版, 2010.
文化デジタルライブラリー 「能楽」https://www2.ntj.jac.go.jp
能楽協会ホームページ https://www.nohgaku.or.jp/encyclopedia/whats/stage.html