「君たちはどう生きるか」は夢のような象徴的な映画

宮﨑駿「君たちはどう生きるか」を見た感想。

 

夢のような、象徴的で奇想天外で非論理的な映画だと思った。

様々な分析が出ていて面白く読んでいるが、私はすべてを具体的に理解することはできないと思う。もっと抽象的な問いやアイデア、葛藤、答えが詰め込まれている。作っている人たち自身、意識に上っていることも言葉にならずに漠然としていることも、すべてが象徴を通して表現されているため、頭で理解しようとしてもそれはかなわない。感覚やイメージやアイデアの奔流。

「下の世界」は作り手自身の内的世界であり、潜在的な領域なのだと思う。常識や論理だけではなく、突然降ってくるアイデアや複雑な感情、心理的コンプレックス、言葉にならない抽象的な考え、漠然とした疑問、こんなものが混沌と同居しているのが人間だと思う。それに何かしらの答えを出して生きていくのが「上の世界」での生き方なのだ。「上の世界」では受け入れがたいことが起こったり、自身の方針を表明する必要があるが、「下の世界」ではただそこで起こることを受容していく。それは自身の内的世界の旅だからなのだ。

そんな「下の世界」は美しく、瑞々しく、深く、しかしグロテスクで、傲慢さ、矛盾、自己中心的な見方も存在している。しかし逃げることなく、真っ向から挑み続ける姿に心の強さを感じた。

 

「清濁併せ呑む」という言葉がある。世の中には美しさも醜さも存在している。美しいものは皆進んで受け取りたがり、醜いものは避けようとするだろう。または自暴自棄になり、醜いものばかり集めて美しさは眩しくて見られない人もいる。人間は美しさを喜び醜さを見たがらないかもしれないし、逆に濁に囚われて美しさに挑むことができない弱さに陥っているかもしれない。この映画では主人公はあくまで「美しい」が、醜さを殊更に排除しようとせずむしろ積極的に描き出すことで、作り手の、自らの持つ醜さを認めようと奮闘しているのを感じる。

しかし我々は結局は美しさに向かって生きていかなければならない。醜さを吞み込みながら美しさに挑んでいくということが豊かな美しさなのだと思う。