遥かなる嗜虐心

男は、自宅へと急いでいた。夜も更け、時々車のライトが男を照らすほかは、あたりはすっかり静まり返っていた。石畳の道にコツコツと革靴の音が響いていた。

 

自宅へ戻った男は、鞄を下ろすなり冷蔵庫を開け、ピクルスとビール瓶を取り出した。最近は夕食など取らない。これでカロリー摂取は済ませてしまうのだった。瓶に入ったピクルスを皿にあけ、箸でつまむ。ビールはグラスにも注がず、そのまま飲むのが男のやり方だった。

 

食事を終えた男はネクタイを緩めながら地下室のドアへと向かった。ようやく一日が始まるのだ。重い扉をゆっくりと開けると少し埃くさいコンクリートの地下室が男を迎えた。ひんやりした床に裸足の足が無造作に踏み出された。男は扉に鍵をかけ、タバコを吸い始めた。煙を吸い込むと、肺の中に澱んだ空気が広がり身体に染み込んでいくようで男はそれを好んでいた。朦朧とした頭でふん、と鼻を鳴らした男は部屋の奥へ向かって歩き始めた。部屋には空のバスタブが置いてあった。男はバスタブの中に入り、力を抜いてずるずるともたれかかった。さあ、今日は何を考えようか――。